前立腺がんの早期発見に役立つPSA検査とは?
- 2024.09.09
「PSA検査」について、検査の概要から、方法、費用、よくある疑問まで、この記事を読めば全て分かります。PSA検査は、前立腺がんの早期発見に非常に有効な検査です。しかし、PSA値だけで前立腺がんと断定できるわけではありません。この記事では、PSA検査を受けるメリットだけでなく、注意点や他の検査との関連性についても詳しく解説することで、検査を受けるかどうか悩んでいる方、検査結果について不安を感じている方の疑問を解消します。
1. PSA検査の概要
PSAとは
PSAは「前立腺特異抗原(Prostate Specific Antigen)」の略称で、前立腺から分泌されるタンパク質の一種です。多くの場合、このPSAは精液に含まれており、精子を液状に保つ役割を担っています。PSA検査はこのPSAを血液検査で測定することで、前立腺の状態を把握する検査です。
PSA検査でわかること
PSA検査では、血液中のPSAの濃度を測定します。PSA値は前立腺がんにおいて特に上昇することが知られていますが、前立腺肥大症や前立腺炎など、他の前立腺疾患でも上昇することがあります。また、加齢によってもPSA値は上昇する傾向があります。そのため、PSA検査単独では前立腺がんの確定診断はできませんが、前立腺がんの早期発見のためのスクリーニング検査として重要な役割を担っています。
PSA値と前立腺がんの関連性
PSA値が高いほど前立腺がんのリスクが高まる傾向がありますが、PSA値が低いからといって前立腺がんではないとは言い切れません。PSA値が低いにもかかわらず前立腺がんと診断されるケースもありますし、逆にPSA値が高くても前立腺がん以外の疾患である場合もあります。そのため、PSA検査の結果は他の検査結果と合わせて総合的に判断する必要があります。
PSA検査の目的
PSA検査の主な目的は以下の通りです。
- 前立腺がんの早期発見
- 前立腺がんの治療効果の判定
- 前立腺がんの再発の早期発見
前立腺がんは早期発見・早期治療によって治癒が期待できるがんです。PSA検査は、自覚症状が現れる前の早期段階で前立腺がんを発見するのに役立ちます。また、前立腺がんと診断された患者さんの治療効果の判定や、治療後の経過観察においても重要な検査です。
2. PSA検査の方法と流れ
PSA検査は、比較的簡単な血液検査で、流れは以下の通りです。ただし、医療機関によって多少の違いがある場合があるので、事前に確認しておきましょう。
検査前の注意点
- PSA値は、前立腺以外による影響も受けます。検査前に、医師に服用中の薬やサプリメント、最近の前立腺への刺激(自転車に乗った、性行為など)について伝えてください。
- 医療機関によっては、食事の制限がある場合もあります。指示に従ってください。
検査の手順
- 採血 通常、肘の内側から血液を採取します。採血時間は5分ほどで終わります。
- 検査結果の待ち時間 医療機関によって異なりますが、PSA検査の結果が出るまでには、数日~1週間程度かかるのが一般的です。
検査結果の受け取り方
- 検査結果の説明 検査結果が出たら、医師から数値の説明と、今後の対応について説明があります。数値が高い場合は、前立腺がんの可能性を調べるために、追加の検査が必要になることがあります。
- 追加検査 PSA値が高い場合、直腸診や前立腺の画像検査など、追加の検査が行われることがあります。これらの検査結果も踏まえて、最終的な診断が下されます。
3. PSA検査の基準値
PSA検査の結果は、ナノグラム/ミリリットル(ng/mL)という単位で示されます。PSA値は、年齢や前立腺の大きさによって異なり、個人差があるため、一概にこの値なら大丈夫、この値なら危険とは言えません。しかし、一般的には、年齢と共に基準値が高くなる傾向があります。
年齢別のPSA値の目安
日本泌尿器科学会では、以下の表のように年齢に応じたPSA値の基準を示しています。(参考:日本泌尿器科学会)
年齢 | PSA値の目安(ng/mL) |
---|---|
40歳未満 | 2.0 ng/mL以下 |
40歳~49歳 | 2.5 ng/mL以下 |
50歳~59歳 | 3.5 ng/mL以下 |
60歳~69歳 | 4.5 ng/mL以下 |
70歳以上 | 5.0 ng/mL以下 |
ただし、この表はあくまでも目安であり、PSA値が基準値を超えていても、必ずしも前立腺がんが疑われるわけではありません。前立腺肥大症や前立腺炎など、他の疾患が原因でPSA値が上昇することもあります。逆に、PSA値が基準値内であっても、前立腺がんの可能性を完全に否定できるわけではありません。特に、PSA値が急激に上昇する場合や、直腸診で異常が認められる場合は、注意が必要です。
PSA値が高い場合
PSA値が基準値を超えている場合は、医師は、PSA値の上昇の原因を調べるために、更なる検査を行います。例えば、以下のような検査があります。
- PSAと総PSAの比率 血液中のPSAには、前立腺がん細胞から放出されるものと、正常な前立腺細胞から放出されるものがあります。前立腺がんが疑われる場合は、総PSAに対する、前立腺がん細胞から放出されるPSA(PSA)の割合を調べることで、前立腺がんのリスクをより詳しく評価することができます。PSAの割合が低いほど、前立腺がんのリスクが高いとされています。
- PSA速度(PSA velocity) PSA速度は、一定期間におけるPSA値の上昇速度のことです。PSA値が短期間で急激に上昇する場合は、前立腺がんの可能性が高いとされています。一般的には、1年間で0.75 ng/mL以上の上昇が認められる場合は、注意が必要とされています。
- MRI検査 MRI検査は、磁場と電波を使って体の内部を画像化する検査です。前立腺がんが疑われる場合は、MRI検査を行うことで、前立腺がんの有無や大きさ、位置などを詳しく調べることできます。特に、近年普及が進んでいるMRI検査は、従来のMRI検査よりも高画質で、前立腺がんの発見率が高いとされています。
- 前立腺生検 前立腺生検は、前立腺組織の一部を採取して、顕微鏡で調べる検査です。前立腺がんの確定診断には、前立腺生検が必要となります。前立腺生検は、肛門から超音波プローブを挿入し、超音波ガイド下に行われます。検査前に、局所麻酔を行いますので、痛みはほとんどありません。
PSA値が低い場合
PSA値が基準値内であっても、油断は禁物です。PSA値が低い場合でも、前立腺がんが発見されることがあります。特に、PSA値が2.0 ng/mL以下の場合でも、約15%に前立腺がんが発見されるとの報告があります。また、PSA値が低い前立腺がんは、進行が遅い傾向があるため、発見された時には、すでに進行している場合もあります。そのため、PSA検査の結果にかかわらず、定期的に前立腺がん検診を受けることが重要です。特に、家族に前立腺がんの患者がいる場合や、前立腺がんのリスク因子を持っている場合は、注意が必要です。
4. PSA検査を受けるメリット
PSA検査を受ける主なメリットとしては、以下の3つが挙げられます。
前立腺がんの早期発見
PSA検査は、自覚症状が現れにくい初期段階の前立腺がんを発見するのに役立ちます。前立腺がんは進行が遅いため、早期発見できれば完治の可能性が高まります。特に、50歳以上の男性や、前立腺がんの家族歴がある方は、定期的なPSA検査の受診が推奨されています。
- 早期発見により、手術や放射線治療などの負担の少ない治療法を選択できる可能性が高まります。
- 早期発見により、がんが他の臓器に転移するリスクを低減できます。
PSA検査単独ではがんの確定診断はできませんが、国立がん研究センターによると、PSA値が高い人ほど前立腺がんのリスクが高いというデータが出ています。
治療方針の決定
PSA検査の結果は、前立腺がんの疑いがある場合の治療方針を決定する上で重要な指標となります。PSA値やその他の検査結果に基づいて、医師は患者さんにとって最適な治療方法を検討します。
PSA値 | 治療方針の例 |
---|---|
低い | 経過観察、定期的なPSA検査 |
高い | 精密検査(MRI、生検など)、治療開始 |
PSA値が低い場合は、必ずしも前立腺がんではない可能性もあるため、経過観察となる場合があります。一方、PSA値が高い場合は、前立腺がんの疑いが強いため、精密検査を行い、診断が確定した場合には治療が開始されます。治療は、手術療法、放射線療法、ホルモン療法など、患者さんの状態やがんの進行度に応じて選択されます。どの治療法にもメリット・デメリットがあるため、医師とよく相談し、自身にとって最適な治療法を選択することが重要です。
生存率の向上
前立腺がんは早期発見・早期治療によって生存率が大きく向上するがんです。PSA検査による早期発見は、前立腺がんによる死亡リスクを減らし、健康寿命を延ばすことに繋がります。
ただし、PSA検査はあくまでもスクリーニング検査であり、100%正確に前立腺がんを診断できるわけではありません。PSA値が低い場合でも前立腺がんの可能性はゼロではなく、逆にPSA値が高くても前立腺がんではない場合もあります。そのため、PSA検査の結果だけで判断せず、医師とよく相談することが重要です。
5. PSA検査の費用
PSA検査を受けるにあたって、費用は気になる点の一つでしょう。PSA検査の費用は、保険診療か自由診療か、医療機関、検査項目の追加などによって異なります。
保険診療の場合
前立腺がんの診断を目的としたPSA検査は、保険適用となります。ただし、PSA検査単独での検査は認められておらず、診察と併せて行う必要があります。そのため、費用は医療機関によって異なりますが、初診料や再診料、診察料なども含めて、およそ3,000円~5,000円が目安となります。
PSA検査が保険適用となるケース
- 前立腺がんの確定診断
- 前立腺がんの経過観察
- 前立腺肥大症の治療効果判定
自由診療の場合
人間ドックや健康診断など、健康状態のチェックを目的としてPSA検査を受ける場合は、自由診療となります。費用は医療機関によって異なりますが、およそ5,000円~10,000円が目安となります。
自由診療でPSA検査を受けるメリット
- 自分の希望するタイミングで検査を受けられる
- 検査結果を早く知ることができる場合がある
- 他の検査項目と組み合わせて受診できる
PSA検査と併せて行われることが多い検査
PSA検査の結果、PSA値が高い場合は、前立腺がんの確定診断のために、以下の検査が追加で行われることがあります。これらの検査費用は別途必要となります。
検査項目 | 内容 | 費用目安 |
---|---|---|
直腸診 | 医師が指を肛門に挿入し、前立腺の大きさ、硬さ、表面の凹凸などを調べる検査 | 保険診療の場合、初診料などと合わせて3,000円~5,000円程度 |
超音波検査 | 肛門から超音波プローブを挿入し、前立腺の大きさや形、腫瘍の有無などを調べる検査 | 保険診療の場合、5,000円~10,000円程度 |
前立腺生検 | 前立腺組織を採取し、顕微鏡でがん細胞の有無を調べる検査 | 保険診療の場合、20,000円~30,000円程度 |
PSA検査は、早期発見が難しい前立腺がんを早期に見つけるための有効な手段の一つです。費用面も含め、検査を受けるかどうかは、医師とよく相談した上で判断しましょう。最新の情報は、厚生労働省や国立がん研究センターなどの信頼できる情報源も参考にしてください。
6. PSA検査に関するよくある質問
PSA検査について、よくある質問と回答をまとめました。気になる項目があれば、参考にしてください。
Q1.PSA検査はいつ受ければいいですか?
基本的には、50歳以上の男性は定期的にPSA検査を受けることが推奨されています。ただし、前立腺がんの risk factor をお持ちの方、例えば、家族歴がある方や、特定の遺伝子変異を持つ方は、40歳代から検査を受けることを検討する必要があるかもしれません。具体的な検査時期については、医師と相談して決めるようにしましょう。
Q2.PSA検査は痛みがありますか?
PSA検査は、一般的な血液検査と同様の方法で行われます。腕の静脈から少量の血液を採取するだけなので、痛みはほとんどありません。ただし、注射針を刺す際に多少の痛みを感じる方もいるかもしれません。心配な方は、検査前に医師や看護師に相談してみましょう。
Q3.PSA検査以外の検査も必要ですか?
PSA値が高い場合、前立腺がんの可能性をさらに詳しく調べるために、以下の検査が追加で行われることがあります。
- 直腸診:医師が指を肛門に挿入し、前立腺の大きさ、硬さ、形状などを調べる検査です。
- MRI検査:磁気共鳴画像装置を用いて、前立腺の詳細な画像を撮影する検査です。がんの有無や大きさ、位置などを詳しく調べることができます。
- 前立腺生検:前立腺から組織を採取し、顕微鏡でがん細胞の有無を調べる検査です。前立腺がんの確定診断には、この検査が必要となります。
Q4.PSA検査を受ける際に費用はどのくらいかかりますか?
PSA検査の費用は、医療機関や検査内容によって異なります。保険診療の場合、3割負担で1,000円〜2,000円程度が目安となります。ただし、医療機関によっては、初診料や再診料などが別途かかる場合があります。自由診療の場合は、医療機関によって価格設定が大きく異なるため、事前に確認することをおすすめします。
Q5.PSA検査を受ける前に食事制限は必要ですか?
PSA検査は、血液中のPSAの量を測定する検査です。食事の影響を受けにくい検査なので、基本的には食事制限はありません。ただし、水分をたくさん摂るとPSA値が薄まる可能性があるため、検査前は水分摂取を控えるように指示される場合があります。検査を受ける前に、医師や看護師の指示に従うようにしましょう。
Q6.PSA値が基準値内でも油断してはいけませんか?
PSA値は、前立腺がん以外にも、前立腺肥大症や前立腺炎などによっても上昇することがあります。また、PSA値が基準値内であっても、前立腺がんが隠れている可能性もゼロではありません。そのため、PSA検査の結果だけで自己判断せず、医師に相談することが大切です。
Q7.PSA検査の結果はいつ頃わかりますか?
PSA検査の結果は、通常1週間程度でわかります。ただし、医療機関や検査内容によっては、結果が出るまでに時間がかかる場合もあります。検査結果については、医師から説明がありますので、検査後に予約を取っておきましょう。
Q8.PSA検査を受けるかどうか迷っています。
PSA検査を受けるかどうかは、メリットとデメリットを比較検討し、最終的にはご自身で判断する必要があります。検査を受けるかどうか迷う場合は、医師に相談し、ご自身の状況に最適な選択をしましょう。
7. PSA検査を受ける際の注意点
PSA検査は、前立腺がんのスクリーニングに有用な検査ですが、いくつかの注意点があります。PSA値だけをみて安易に安心したり、逆に必要以上に心配したりするのではなく、検査結果を正しく理解し、医師とよく相談することが重要です。
PSA値だけで判断できない場合
PSA値は、前立腺がん以外にも様々な要因で変動します。例えば、前立腺肥大症、前立腺炎、尿路感染症、射精、自転車の乗車などによってもPSA値は上昇することがあります。そのため、PSA値が高い場合でも、必ずしも前立腺がんと診断されるわけではありません。逆に、PSA値が低い場合でも、前立腺がんの可能性を完全に否定できるわけではありません。PSA検査の結果は、他の検査結果や症状などと合わせて総合的に判断する必要があります。
他の疾患との関連
前立腺がんと診断された場合でも、PSA値が必ずしも病気の進行度や悪性度を反映するわけではありません。PSA値が低いからといって安心できるわけではなく、PSA値が低いにもかかわらず進行の速い悪性度の高い前立腺がんも存在します。また、PSA値は治療の効果判定にも用いられますが、治療後のPSA値の変化が必ずしも病気の経過と一致するとは限りません。そのため、PSA値はあくまでも指標の一つとして捉え、他の検査結果や臨床症状と合わせて総合的に判断することが重要です。
専門医への相談
PSA検査を受けるかどうか、また検査結果をどのように解釈するかは、年齢や健康状態、家族歴などを考慮して、専門医とよく相談することが大切です。PSA検査には、偽陽性(実際には病気ではないのに陽性と判定されること)や偽陰性(実際には病気であるのに陰性と判定されること)の可能性があること、また、前立腺がんの治療には、手術や放射線治療などの侵襲の高い治療法も含まれることを理解しておく必要があります。専門医は、これらの情報を踏まえて、患者さんにとって最適な医療を提供します。
PSA値の範囲 | 考えられる状態 | 推奨される対応 |
---|---|---|
4.0 ng/mL以下 | 前立腺がんのリスクが低い | 定期的な検査で経過観察 |
4.0~10.0 ng/mL | 前立腺がんの可能性がある | 精密検査(MRI検査、生検など)の検討 |
10.0 ng/mL以上 | 前立腺がんのリスクが高い | 速やかに専門医への受診 |
上記はあくまでも目安であり、PSA値だけで判断することはできません。 最終的な診断は、専門医による診察と、必要に応じて行われる他の検査結果に基づいて行われます。気になる症状がある場合や、検査結果について不安がある場合は、必ず専門医に相談してください。
8. まとめ
PSA検査は、前立腺がんの早期発見に非常に有効な検査です。PSA値が基準値を超えている場合は、必ずしも前立腺がんと断定できるわけではありませんが、専門医の診察を受けることで、適切な診断と治療方針を決定することができます。ご自身の健康状態を把握するためにも、定期的なPSA検査の実施を検討しましょう。